つながりを取り戻す
最初に紹介された時、正直なところ(何だか怪しそうなタイトルだ)と思った。
しかし実際は、現代社会で生きる多くの人にとって示唆に富む良書なので、ぜひタイトルに惑わされず手にとって欲しいと思う。
著者によれば、コミュニオンとは「人類がひとつに結びついている深い世界」のことである。そこは根源的な愛で満たされた無条件の世界であり、誰もがつながっている場所なのだが、現代のように条件や行動で評価される世界に生きていると、その存在を意識することすら難しい。
そんなコミュニオンへの道筋が、相手の話を全身全霊を傾けて聴く「アクティブ・リスニング」を入り口に解き明かされる。職場や学校、家庭など、誰でも思い当たりそうな豊富な事例を取り入れながら、聴くことの大切さと難しさ、そして、ただ相手の存在を全身で聴くことがもたらす結果が淡々と語られていく。
私自身、アクティブ・リスニングを5日間ひたすら聴きまくるという体験学習で学んだが、自分の中をからっぽにして、ただただ相手の世界に同調して深く傾聴を重ねた先に感じた、場との一体感、単なる「安心感」を越えた、生体レベルとも言える安心感とつながりの感覚に激しい衝撃を覚えた。母の胎内にいた時、多分このような感覚だったのでは、と思われた。今まで殆どこの感覚なしに生きてきたと思うと、心が冷え冷えした。それぐらい現代社会では、大きなものとのつながりが失われ、個と個が断絶しているのだと思う。
最後の章に、日本の大手商社でバリバリ働き、アメリカ法人の社長をしていたKさんという方の話が出てくる。Kさんの言葉が、この本の内容が対人援助など特定の職業でなく、すべての人にとって大切である証であると私には思われる。
私は、たくさんの若いエリート商社マンを日本から迎えています。彼らは選りすぐられた人たちで、仕事をバリバリこなしています。しかし、彼らと話していても、人間同士で響き合うものが感じられないのです。〜中略〜
日本からきた若いエリートたちは、私と同じように忙しすぎて心が疲れ、生き生きとした清水が湧き出る心の深みの源泉が閉ざされているのかもしれません。(p.153)
人類の成長は一人ひとりが内なるものを枯渇させないように、いつもみずみずしく保つことから始まるのではないでしょうか。ビジネスの世界に、一人ひとりが内なるみずみずしさを浸透させていくことこそ、本当のビジネスマンの使命ではないでしょうか。(p.155)